マラセチア皮膚炎とは
マラセチア皮膚炎は皮膚の感染症で、犬にとってよくある病気のひとつです。
犬のマラセチア皮膚炎とは、「malassezia pachydermatis:マラセチア・パチデルマティス」と呼ばれる酵母様真菌(酵母の一種)によって引き起こされる、皮膚の炎症のことです。
「脂漏性皮膚炎:しろうしょうひふえん」、「脂漏症:しろうしょう」とも呼ばれますが、通常は「マラセチア」と呼ばれることが多いです。
マラセチアは、犬や人間の皮膚に常在して、健康な皮膚環境のもとでは特に問題を起こしませんが、体質や病気等の原因で、マラセチア菌が皮膚で過剰に増殖することで起こります。
猫にはあまり見られず、犬にとても多くみられる皮膚の病気で、局所的あるいは全身的に発症します。
原因菌の「マラセチア菌」とは

犬のマラセチア皮膚炎
マラセチアは、担子菌類に分類されるカビの仲間であり、酵母菌(こうぼきん)という真菌(しんきん:カビ)の一種で、長径3~5umの非常に小さなピーナッツ型の酵母様真菌です。
人や動物の皮膚に存在している常在菌として、脂質を栄養源として生活しています。
常在菌とは…人間や動物の皮膚や口吻、外耳道、指間、肛門周囲の表面に常在し、普段は悪さもしないでおとなしく生息している菌のこと。
マラセチアは、生物の皮膚に生息しているので、『皮膚常在菌:ひふじょうざいきん』と呼びます。
普段は害を与えることはありませんが、自己免疫力が低下したりすると異常繁殖しやすくなります。
現在14菌種が報告されているなかで、犬猫の皮膚病で問題になるのは、Malassezia pachydermatis(マラセチア パチデルマティス) という種類です。
通常、マラセチアは脂質の少ないところではあまり適応できませんが、マラセチアパチデルマティスは宿主域が広く、陸上哺乳類のほかに海洋生物からも分離されています。
また、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、リポキシゲナーゼといった各種の分解酵素を放出し、皮膚におけるタンパク質の分解、脂肪の分解、pHの変化を誘発します。
犬がマラセチア皮膚炎になる原因
体調や環境が悪い時になりやすい傾向があります。

犬のマラセチア皮膚炎
マラセチア菌が増えやすい原因、環境がある
- 皮膚や耳の分泌物量が通常より多い時
- 湿度が高い時
季節にも関わりがあり、マラセチア菌は湿度の高い環境で増えやすいため、特に夏や梅雨などのジメジメした湿度の高い時期に発症しやすくなります。
- 抵抗力が落ちている時
マラセチア菌は、抵抗力の落ちているときにも繁殖しやすく、何かの原因で皮膚の状態が悪くなったり、皮脂の分泌が過剰になったりすると、過剰に増殖し、炎症や痒みを引き起こすのです。
一度感染して症状があらわれると、マラセチアは皮膚の表面を変化させてさらに増えていきます。
- 皮膚を過剰に舐めたり、掻き壊したりして皮膚の状態が悪くなる
マラセチア菌は、皮脂を栄養源とするため、体質的に皮脂分泌の多い犬や、耳垢の多い犬に、何らかの皮膚トラブルが生じた場合に過剰増殖しやすい傾向があります。
マラセチア皮膚炎になりやすい状況がある
- 他の病気によって抵抗力が落ちた時
基礎疾患として、アトピーや食物アレルギーや脂漏症、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患、腫瘍などがある犬では、マラセチア菌が増えやすいと言われています。
また、副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症、クッシング症候群などの内分泌疾患により、身体の免疫機能や代謝が衰えることでマラセチアが増殖しやすくなってしまいます。
- マラセチア菌自体が増えた時
一度症状があらわれると皮膚表面が変化することにより菌がさらに増殖するという特徴があります。
アトピー性皮膚炎などで慢性的な痒みがあると、皮膚を何度も引っ掻いたり、掻きむしるため、皮膚のバリア機能が低下して、マラセチアなどの細菌の影響を受けやすくなります。
マラセチアはスタフィロコッカス(ブドウ球菌)という細菌と、お互いに増殖しやすい環境を作り出すことが知られています。
つまり、マラセチア皮膚炎だけではなく、細菌による皮膚炎を起こす場合もあります。
基礎となる病気が良化すれば皮膚炎も落ちついてきますが、脂漏症や難治性のアトピー体質では、皮膚にも長期にわたるケアが必要になることも少なくありません。
再発性のマラセチア皮膚炎になっている
再発性のマラセチア皮膚炎も問題となっています。
シャンプーや抗真菌薬投与で一時的に皮膚炎が良化しても、治療を中止すると、再発を繰り返してしまうのです。
さらに最近では、国内外で犬の難治性マラセチア皮膚炎や脂漏性皮膚炎から、アゾール系抗真菌剤に対する低感受性株が分離されているため、長期の抗真菌剤使用には注意が必要です。
また、ステロイドや免疫抑制剤治療によるマラセチア皮膚炎の増悪に気づかずに、アトピー性皮膚炎の悪化と誤認してしまうことがあります。
特に、犬、猫のアトピー性皮膚炎の病変部で異常増殖し、皮膚炎を増悪させる因子と注目されています。
基礎疾患としてアレルギー性皮膚炎、甲状腺機能低下症、甲状腺腫瘍(猫)などが挙げられます。
犬のマラセチア性皮膚炎の症状は?

犬のマラセチア皮膚炎
主に、皮膚炎と外耳炎を起こします。
ほとんどの症例から、独特な悪臭がするようになります。
- 脂っぽい滲出物 脇の下や内股など皮膚がこすれる部分に、ワックスのようなベタベタした皮脂がでる
- 痒み
- カビに似た悪臭 耳・口唇・指間・肛門周囲などにもみられ、「脂漏臭」と呼ばれる酸っぱく油っぽい臭いを出します。
- 被毛のべとつき
- フケの増加 独特の臭気がする脂っぽいフケ
- 発疹・紅斑 細かい鱗屑(フケ)を伴う発赤
- 皮膚の異常、脱毛
慢性化すると皮膚が黒ずんだり、表面にコケが生えたようになったり、毛が抜けたり、ボコボコと皮膚表面が肥厚する「苔癬化」という状態になったりします。
- 外耳炎
耳垢が大量に出て体がべたべたと脂っぽくなり、ひどくなると独特の匂いを発するようになります。
犬に限らず、耳の中は、じめじめと湿度が高い場所です。
マラセチアにとって、とても住みやすいところなんです。
しかも、シャンプーの後の水分が耳の中に残ってしまっていると、マラセチアの増殖を助ける環境となってしまいます。
また、耳の垂れている犬種では、通気性が悪く、蒸れやすく、マラセチアが増殖しやすい環境になります。
犬の外耳炎の70%は、マラセチアが原因といわれています。
症状としては、外耳炎になると、頭を振るようになったり、耳のあたりをしきりにかいたり、耳を触られると痛がりもします。
また、こげ茶色~黒色の、独特な臭いのあるネットリした耳垢が見られるようになり、粘りけのある分泌物によって耳垢(みみあか)が増えたりします。
マラセチア皮膚炎が強いかゆみを伴う理由
マラセチア皮膚炎は強い痒みも同時に引き起こしますが、これには2つの理由があります。
- マラセチアは、皮脂を発酵させていろんな代謝産物(ゴミ)を排泄しますが、それが皮膚に対して強い刺激となる
- マラセチアの菌体そのものが、強いアレルギーを引き起こすために、そこに生じる皮膚炎もまた強い痒みの原因となる
マラセチア皮膚炎が起こる部位
体の様々な部位にマラセチア菌に感染して、かゆみを引き起こします。
耳に感染した場合、頭を傾けて耳をかゆがったり痛がったりする症状がみられるのが特徴です。
重症化すると、つねに頭を傾けた姿勢をとるようになることもあります。
多くの場合感染したところに「厚くなった皮膚」や「脂肪の多い皮膚」、「フケ」、「脱毛」、「悪臭」などがみられます。
マラセチア皮膚炎になる体の部位です。
- 口
- 顎
- 耳の中
- 外耳道の周り
- 頸部(特に腹側)
- わきの下
- 股の間
- 肉球の間
- 爪の間、爪の下
- 肛門のまわり
- 尾の腹側
- 指の間
マラセチア皮膚炎は人間に感染するの?
マラセチアは犬の皮膚にも人の皮膚にも存在する常在菌ですが、犬のマラセチア菌と人間のマラセチア菌は種類が異なるため、犬のマラセチアが人にうつるということはありません。
人がマラセチア皮膚炎にかかった場合、犬から感染したというよりは、本来その人が持っていたマラセチア菌が、アレルギーや体調不良など免疫力の低下によって、引き起こされる可能性の方が、高くなります。
ちなみに、犬から犬への感染もありません。
マラセチア皮膚炎になりやすい犬の種類
マラセチアは、犬種の中で圧倒的にシーズーに多く見られる病気です。

シーズー
皮膚にある皮脂を食べている菌なので、皮脂の多い犬種は特に注意が必要です。
顔や体にしわが多く、皮脂(皮膚の油)のたまりやすい犬種(フレンチブルドッグやパグ)は、フケやアカがたまりやすくマラセチアが増殖しやすいと言われています。
垂れ耳であったり、耳の中に毛が密集していたり、常に耳の中がジメジメしている状態の犬も、マラセチアにかかりやすいと言われます。
- アメリカン・コッカー
- イングリッシュセター
- ウェストハイランド・ホワイトテリア
- キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
- ゴールデンレトリーバー
- コッカー・スパニエル
- シーズー
- シェットランド・シープドッグ
- ジャーマンシェパード
- シルキーテリア
- ダックスフント
- テリア
- トイプードル
- パグ
- バセットハウンド ビーグル
- フレンチブルドッグ
- プードル
- ボクサー
- ボーダーコリー
- ミニチュアシュナウザー
これらの犬種には、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーも多くみられ、皮膚炎の悪化を助長する原因にもなっています。
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